偽王子と、甘い偽恋
 そして今日はどこまでも、紳士的で王子様のような振る舞いを見せてくれていた。

 車の助手席側のドアを開け、私が乗り込むのを待つ。乗り込む際もそっと手を添えて支えてくれ、しっかりと座ったのを確認してから、静かにドアを閉める。

 それから流れるような動作で運転席に乗り込み、スムーズにシートベルトを着用した。

 今日の臣くんは、隙がないほどに優しい。

 私がぼーっと彼に見惚れていると、ふとした瞬間に視線が重なった。彼はふっと微笑むと、不意にこちらへと距離を詰めてくる。思わずぐっと身を引いてしまった。

 そのまま、臣くんの顔が間近に迫る。


(え、急になんで……!?)


 心臓が跳ね、思わず警戒心を露わにしていると、彼は私の目を見つめたまま、次第にいつもの憎たらしい表情へと戻っていった。

 ふっと鼻で笑い、私の肩越しにあるシートベルトを掴むと、そのままカチリと装着させる。

 無駄にドキドキさせられた挙げ句、結局何も起こらなくて、なんだかお預けを食らったような残念さが込み上げてくる。


「車の中で何考えてんだよ。それも会社の前だろ?」


 遊ばれてる!悔しい!

 言い返す言葉が見つからず、私はやり場のない思いで自分の太腿をバシバシと何度も叩いた。

 臣くんはほんの少し楽しそうに笑い、セレクトレバーをドライブに入れると、そのままゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

 やっぱり腹黒王子だった! 急に白馬の王子様なんて、柄になるわけがなかった!
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