偽王子と、甘い偽恋
「ん?」

「寝る時は俺の部屋な」


 そう言い放ち、まっすぐにこちらを射抜いてくる。
 久しぶりに一緒に眠れるのだと思うと、急に顔が熱くなった。

 臣くんが一度家を出て、再会したあの日だけはうちに泊まってくれた。だけどそれ以降は、彼の仕事が忙しいこともあって、たまに食事へ行けても泊まりにくることは一度もなかった。

 その間は、本当に寂しかった。
 家に来ても、臣くんは自分の家へ帰ってしまう。


「…あのさ」

「何」

「何で、今まで家に泊まりに来なかったの?行くことも拒否されたし」


 思い切って問いかけると、臣くんは私の目をじっと見つめ返した。

 私はそわそわしながら、彼の言葉を待つ。

 この沈黙の時間は、いつだって心臓に悪い。


「…理性飛ぶから」

「…へ?」


 予想外の告白に、情けないほど素っ頓狂な声が出た。


「あのさ、俺はいろいろと頑張らなきゃいけない立場にあったわけ。朝から晩まで働いて、あのクソ親父の鼻っ面を折ってやろうと思ってたし」

「あ、大変だったよね。そりゃ」

「そんな時に少しでもお前に甘えなんかしたら、一回じゃ済まないだろ」


 あまりにストレートな爆弾発言に、頭が沸騰しそうになる。

 照れ隠しに臣くんの胸元を軽く叩くつもりだったのに、動揺のあまり、バシンッ!と、静かな部屋に、気味のいい音が響き渡った。

 力加減を完全にミスした私の掌が、彼の胸板にクリーンヒットした。
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