偽王子と、甘い偽恋
 その部屋着にも、見覚えがあった。

 引っ越し準備で買い物に出た際、「お揃いのパジャマを買おう」と私が駄々をこねたものだ。彼はあんなに嫌がっていたのに、今はそれをしっかり着ている。私のは淡いピンク、彼のはクールなブラック。

 まさか押し付けたものを着てくれるだなんて思っていなくて、私は目を丸くしてパチパチと瞬きを繰り返した。


「なんだよ。忙しい奴」

「着てくれてる…!」

「着ないとうるせぇだろ。で、ノックもせずに何?」

「はっ、そうでした」


 本来の目的を思い出し、手に持っていたネックレスを差し出す。
 すると臣くんは何でもないことのように「ああ」と声を漏らした。
 まるで、今思い出したとでも言うような、気の抜けた返事だった。


「ああ、じゃないよ!何!?このハイカラ…、ハイカラーなダイヤは!」

「それを言うならハイカラットだろ」

「そうともいう!」


 まるでクレヨンしんちゃんのようなやり取りをしながら、ぐいっとネックレスを突きつける。

 すると臣くんはクスッと微かな笑みを零し、私の手からネックレスを取ると、背後に回った。「髪、持ち上げて」という指示に従って髪をまとめ上げると、彼の手がネックレスを前に回してくる。


「逃げられないように首輪でも付けとこうかなって思って」

「く、首輪って…」

「必要だろ?こういう独占欲も。見せつけとかないとすぐ、その辺の男に着いて行きそうだから」


 そう囁きながら、無防備な首筋にそっと唇を寄せられる。


────独占欲。


 そんなものが彼の中にあったなんて、今まで知らなかった。


「…どこにも行かないよ。むしろ行くのは臣くんのくせに」

「どこも行かねぇよ。ていうか、りりかを俺のにするための下準備してただけ」

「都合の良い言い方」


 そう言って私が笑うと、臣くんも笑って、そのまま後ろから抱きしめてきた。

 今日から、また一緒。
 このまま、何事もなく幸せな時間がずっと続けばいいのに。
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