偽王子と、甘い偽恋
 そんな会話を交わした翌日。

 私は玄関先で、ふてくされ頬を膨らませていた。

 臣くんは顔を顰め、そんな私を見下ろしている。 


「んだよ、その顔は」

「…毎日連絡してくれる?」

「努力はするけど、無理だろうな。時差もあるし、そんな暇はない」

「トイレって嘘吐いてでも連絡して」

「あほか」


 呆れたようにそう言ってから、彼は少し困ったように笑い、私の頭を撫でた。

 その大きな手は大好きだけれど、今はどうしても寂しさの方が勝ってしまう。

 たった一週間。されど一週間。
 私はもう、臣くんと離れ離れになることに耐えられなくなっていた。


「余所見しないで、いい子で待ってろよ」

「…それは臣くんも」

「俺が?しねぇよ」


 そう言って笑うと、彼は私の頬を両手で包み込み、額、目元、頬、鼻先、そして最後に唇へと、優しく口付けてくれた。

 それだけで終わるかと思った矢先、彼の視線が私の首元に留まる。もう一度顔を近づけてくると、スーツのシャツでぎりぎり隠れる位置に、強く吸い付いてくる。


「…っ」

「…これで一週間は出かけらんねぇだろ。大人しくしとけよ」


 それだけ言い残すと、彼はついに出て行ってしまった。

 仕事に向かう彼を応援したい気持ちはあるけれど、やっぱり寂しい。

 出発の間際までたくさん我儘を言って甘えたはずなのに、全然足りない。

 深く溜息を吐き、私も自分の仕事の準備を始めた。
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