偽王子と、甘い偽恋
 その日は、一日を通してどうしても力が入らなかった。

 いつもなら、家に臣くんがいると思えばどんなに嫌な仕事だって頑張れる。家に帰ってからの家事だって、得意じゃなくても、彼のためだと思えば張り切ることができた。

 それなのに、今日の私はダメダメで、本当に情けない。臣くんという存在が私の全ての原動力になってしまっていて、彼がいないと何一つ手につかない。

 これが依存というものなのかもしれない。いないと不安で、怖くて、色々な感情に押し潰されそうになる。それでも、臣くんでなきゃダメで、好きだという気持ちだけは溢れるほどにある。

 前に、依存と好きの違いについて考えたことがあったけれど、いまだにその答えは出ないまま。私の中で、その二つは共存している。

 会いたい。寂しい。
 一ヶ月離れていたあの時のように、またそんな感情に支配されていく。

 だけど、こうして塞ぎ込んでいても仕方ない。
 何か少しでも、この寂しさを紛らわす方法はないかと考えを巡らせた。

 臣くんがいない間は、自分の部屋にあるベッドで眠ればいいのだけれど、私は吸い寄せられるように、そっと彼の部屋のドアを開けた。

 黒を基調としたシックな空間に足を踏み入れ、そのままベッドに倒れ込む。

 シーツからは、微かに臣くんの匂いがした。だけど、それだけではどうしても足りなくて、私はよろよろと立ち上がり、クローゼットから彼のシャツを一枚掴み取った。そして、再びベッドに倒れ込み、そのシャツをぎゅっと抱きしめて目を閉じる。

 匂いはする。だけど、温もりのない冷たいシャツを抱きしめたところで、胸の奥の寂しさが薄れることはなかった。
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