偽王子と、甘い偽恋
 家に帰ってきて、着替えなどを済ませてから夕飯の用意をしていた。
 面倒なことについては、まだ詳しい話を聞けていない。
 気になりはするけれど、どこか聞きたくないような。

 そんな考え事をしながら下準備をしていると、不意に後ろからぬくもりに包み込まれた。


「やっと帰ってきた」


 疲弊したような、少し掠れた低い声が耳元で響く。


「お疲れ様。晩御飯食べれる?」

「食う」


 短い返事に少しだけ口角を上げて、手を動かし続ける。
 すると、彼はぐっと私に体重を預け、私の髪に顔を埋めてきた。


「ねぇ、ちょっと…!重いんですけど!」


 彼の体を押し戻そうとした時、背後から明らかな違和感のあるものが当たっていることに気付いた。それが何かなんて、聞くだけ野暮というものだろう。

 察した途端、一気に顔が熱くなり、「あ…」と情けない声が漏れた。


「悪い、それどころじゃねぇってわかってるけど、限界みたい」

「いや、本当にそれどころじゃない!」


 軽く後ろを振り返り、彼の胸元を押し返そうとしたけれど、そのまま強引に唇を塞がれた。

 キッチンという場所でこんな甘い雰囲気になるのは、どうにも恥ずかしい。

 ここは愛し合うための場所じゃないのに、体は抗えないほどに熱を帯び始めていた。
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