偽王子と、甘い偽恋
「珍しく弱ってる?」

「…調子乗んなよ」


 私の揶揄うような声に羞恥心が刺激されたのか、ほんの少し照れたような響きが混じる。見れば、彼の耳が赤く染まっていた。彼は顔色に出るのではなく、耳に照れ臭いという感情が出るタイプなのだと思う。

 そういう小さな発見を重ねるたびに、好きという気持ちが増していく。どんどん抑えきれないほどに募って、私は耐えきれず、思い切り彼に抱きついた。


「…本当、意味わかんねぇ女」


 呆れたような呟き。だけど、決して嫌がっていないことはすぐにわかった。背中に回された腕の、私を撫でてくれる手つきがどこまでも優しいから。

 彼が人を突き放す時は容赦がないことを、私はよく知っている。初めて出会った日、交際もしていない女性と口論になった際、彼がどれほど冷徹に相手を突き放していたかを目撃しているから。もし私に嫌悪感があるのなら、今頃とうに突き放されているはずだ。


「べたべたされんのなんかうざいって思ってたけど、意外と悪くねぇな」

「好きな子とはくっつきたいってこと?」

「普通自分で言う?それ」


 その気の抜けた笑い声すらも、たまらなく愛おしい。この穏やかな時間と会話こそが、何よりも尊く、私が一番失いたくないもの。誰にも、渡したくない。
< 127 / 177 >

この作品をシェア

pagetop