偽王子と、甘い偽恋
姫、大変身。
 翌日、臣くんはスーツを着用しながら、重い溜息を吐いていた。

 ジャケットに袖を通し、鏡の前でいくつかのネクタイを合わせながら選んでいる。その顔があまりに不機嫌そうで、私は思わず苦笑いした。


「どうせこっちも意地でも結婚なんかしねぇから、何回相手を用意されても一緒だよな」

「用意って言い方良くないよ」

「いっそ強引にお前と籍入れる?」

「それは不本意にも程があるだろ」


 そんなツッコミを入れると、王子様は再度深い溜息を吐いた。

 他の婚約候補者を紹介されたくないから結婚するなんて、そんなロマンチックの欠片もない提案をするなよ。


「なあ、お前も行かない?」

「え?」

「相手がいるって言っとけばお前も安心じゃない?」


 その提案は、正直に言えば嬉しい。臣くんが私を不安にさせないために、あえて提案してくれていることだと分かるから。

 だけど、私がその場に乗り込むのは、あまりにも場違いな気がして躊躇ってしまう。

 私がほんの少し悩んでいると、臣くんはするりと距離を詰め、私の腰を容易く抱き寄せた。


「なあ、行こ」


 いつもより低くて甘い声を出し、耳元で囁いてくる臣くん。

 どうすれば私が折れるのか、彼は本当によく知っている。
 こういうところが、彼は本当にずるい。
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