偽王子と、甘い偽恋
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 車に強引に乗せられてから三十分後。
 私はなぜか、街中でも有名な高級サロンにいた。

 臣くんは私の背中を軽く押すと、「綺麗な感じで仕上げてやってください。似合いそうなワンピースでも着せて…、基本お任せします」とスタッフに言いつける。

 私は状況が飲み込めないままスタッフに連れ去られ、なすがままにメイクやヘアセット、さらには服まで着替えさせられるという、怒濤の展開に放り込まれた。

 どういう状況かもわからないけれど、プロの手捌きに逆らうこともできず、ただされるがまま。困惑する私をその場に残したまま、臣くんはどこかへ姿を消してしまった。

 一体、どういう状況なんだ、これは…。

 鏡の中に映る、自分であって自分ではないような、お膳立てされていく姿を、私はただ呆然と見つめ続けていた。






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 一時間ほど経った頃だろうか。

 プロの手によって魔法をかけられた私は、鏡の中に立つ自分ではないような姿に呆然としていた。結愛さんに仕上げられた時もそうだったけれど、やっぱりプロの技はすごい。

 繊細なレースがあしらわれた、落ち着いた色味でふんわりとした雰囲気のワンピース。控えめながらも華やかなメイクと、ゆるやかに巻かれた髪。

 そこまで施してもらった後、ロビーでコーヒーを飲みながら待っている臣くんの元へ向かう。すると彼はほんの少し目を見開いた後、ふっと微笑み、こちらに近寄ってきた。


「悪くないじゃん」

「…可愛いって言ってよ。プロにここまでしてもらったんだから」

「はいはい、可愛いよ」


 そんな流すような言い方にふてくされていると、彼はクスッと笑い、私に手を差し出した。


「行きましょうか。姫」

「…変な臣くん」

「夢見がち少女に合わせてやってんだよ」


 そう軽口を叩きながら、彼は私をエスコートし、車へと戻る。

 これから何が待っているのかもわからないまま、目的地へと向かっていく。
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