偽王子と、甘い偽恋
「こっからなんだけど」

「ん?」

「聞かれても特に何も答えなくていいから。父親に関しては、話通じる相手でもねぇし」

「…でも」

「今日は、お前を紹介してさっさと帰るつもり」


 臣くんの有無を言わせない物言いに、私は何も言い返せず、ただ小さく頷いた。彼がそれを確認すると、重厚なドアを押し開けて中へと入っていく。

 部屋の中には数人の男女がいた。張り詰めた空気を纏ったその面々は、一様に険しい表情を浮かべていたけれど、そのうちの女性二人が私達に気付くと、ふっと柔らかな笑みを向けた。


「おかえり、臣」

「ただいま、母さん」


 母さん、と呼ばれたその女性は、優しい眼差しをこちらに注いでいた。臣くんにそっくりで、笑った時に少しだけ垂れる目尻がとても愛らしい方。


「遅いぞ」

「来ただけマシだろ。来るつもりはなかった」


 低い声で応酬する臣くん。正面に座り、いかにも厳格そうな威圧感を放っているこの男性が、おそらく臣くんのお父様。

 そして、その向かいにはフェミニンという言葉がよく似合う、落ち着いた雰囲気の女性が座っていた。穏やかそうな雰囲気を纏っており、大きな瞳が私と臣くんを真っ直ぐに捉えている。


────この人が、臣くんの婚約者。


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