偽王子と、甘い偽恋
「奥平《おくだいら》さん、こちらまで足を運んでいただいたにも関わらず、遅れてすみません。俺に婚約の予定はなかったもので」

「あ…、いえ…、あの、そちらの方は?」


 奥平さんと呼ばれた女性はずっと気になっていたのか、私にちらりと視線を向けながら問いかけた。

 臣くんは私の腕を引き寄せると、そのまま肩を抱き寄せ、自分の体の方へと引き寄せる。


「以前記者会見で話していた女性です」

「あ…、そう、ですか」


 そのがっかりとした様子から、彼女が臣くんに対して好意を抱いているのが痛いほど伝わってくる。

 申し訳ないとは思わない。だけど、胸の奥が少しだけ複雑な気持ちを掠めた。


「臣、勝手なことを話すな」

「そっちこそ、今時政略結婚とか時代遅れなこと言うなよ。結婚で利益を求めなきゃいけないような運営はしてねぇよ」

「今まで逃げてきておいて、何を言ってるんだ。少しくらい役に立て」


 なんなの、その言い草は。

 今の言葉を聞いて、私の腸は煮えくり返る思いだった。

 朝早くから出勤して、夜遅くまで必死に頑張って、休日返上で仕事に打ち込んでいる。彼なりに精一杯の努力を積み重ねているのに、「役に立て」? それでも親なの? と、喉元まで出かかった叫びを必死に抑える。

 拳をぎゅっと握りしめ、思わず何かを言い返そうとした、その時だった。

 そんな私を制するように、私の肩を抱いていた臣くんの手に、一瞬だけ力がこもる。それから、宥めるようにトントンと優しく肩を叩くと、彼はゆっくりと手を離した。
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