偽王子と、甘い偽恋
「営業に回った時のウケは親父よりいいと思うけどね」


 そう笑顔で言い返す臣くんに対し、臣くんのお父様は茹蛸《ゆでだこ》のように顔を真っ赤にしていた。

 それを見て吹き出しそうになるのを必死で堪え、さりげなく周りを見渡すと、彼のお母さまも、そして隣に座るおばあ様までもが全員、笑いを堪えているようだった。

 うちの彼氏、最高…!

 心の中でペンライトを全力で振り回した。


「ともかく、これは家同士で決まっていることでもある。勝手なことを言うな」

「……どっちがだよ」


 低く呟いた臣くんの声は、隣にいる私にしか届いていない。

 もうここまで準備が進み、奥平さんがこの場にいる以上、彼のお父様も後に引けない部分があるのだろう。ましてや相手は大切な取引先の人。失礼に当たるという懸念も、大人として理解はできる。

 とは言え、臣くんの人生は、あくまで臣くんのものであってほしい。

 父親の立場も、その焦りも、多少は分かるところがあるけれど、それでも私は、いつだって臣くんの一番の味方でいたい。そして、今このポジションを易々と誰かに譲るわけにもいかない。

 だって、臣くんのことを世界で一番好きなのは、私だから。

 私が臣くんを運命の相手だと思うように、彼にとっても私を運命だと思っていてほしい。

 運命の王子様なんて、そんなおめでたい理想はこの世にないのかもしれない。

 馬鹿みたいな夢を見ているだけなのかもと、自分に言い聞かせようとしたことは何度もあった。だけど、やっぱり私は臣くんがその人なのだと、信じていたい。
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