偽王子と、甘い偽恋
「それと、今更だけど、そこの女性は、どこの人だ?」

「立派な家柄なんてない」


 この場で母は専業主婦で、父は普通のサラリーマンですなんて、口が裂けても言えない…。


「そんなこと言いだしたら私も普通の家柄の出、だけど、家柄が大事?」


 こここまで黙って状況を見守っていた彼のお母さまが、少し棘のある、けれど凛とした声色で口を開いた。

 その瞬間、彼のお父様は目に見えて慌てたような表情を浮かべる。


「も、問題とは言っていない…」

「声が小さいわね」

「…すまない」


 あ、意外と尻に敷かれてんだ。

 臣くんが少し呆れたような表情で二人を見ていると、今度は奥平さんが「あの…!」と意を決したように声を上げた。


「私にもチャンスをいただけませんでしょうか…!せめて、二人で出かけてお話できるきっかけでも…」


 勢いよく言い切った奥平さんの顔は、林檎のように赤い。

 勇気を振り絞ったその姿は、少女漫画でよく夢に見て、可愛いと憧れたヒロインそのものだった。真っ直ぐにアピールするその眩しさに、私は純粋に羨ましいと思ってしまった。

 きっと、私はあんな風にはなれないから。

 臣くんが少し困ったような表情を浮かべ、「申し訳ございませんが…」と言葉を返そうとした、その時だった。


「行くだけ行きなさい」


 臣くんのお父様の言葉が、臣くんの言葉を遮るように重なった。
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