偽王子と、甘い偽恋
「なんで。どうせお断りするんだから、時間を奪う必要はないだろ。そっちの方が期待持たせるだけ持たせて失礼」

「行かずに決めつけるのも失礼だ」

「そんなことしてたらキリねぇだろ!」

「行きなさい」


 臣くんは何かを言い返そうとしていたが、最終的に強く口を噤み、私の方へ視線を向けた。その瞳には、これに応じることへの、私に対する明らかな罪悪感が滲んでいる。

 もちろん、行ってほしくなんかない。
 彼を好きな相手とのデートなんて、ふざけるなと言いたい。

 だけど、彼だって行きたくて行くわけじゃない。ここで私がわがままを言えば、彼はきっと「行かない」と言い切ってくれる。だけど、それは彼を困らせることになる。

 だから、私は物分かりのいいふりをした。行ってきてと伝えるように、小さくOKのハンドサインを送り、精一杯の笑顔を向ける。

 それを見た臣くんは、わずかに目を見開いた。

 これは、私から彼への信頼の証。
 きっと、私の元へ戻ってきてくれる。そう信じていた。

 その瞬間、彼は分かりやすく顔を歪めた後、すぐに取り繕い奥平さんの方を見た。


「わかりました。行きますか、奥平さん」


 営業用の笑みを浮かべ、淡々とデートの予定を立てる二人。その姿を見ていると、胸が痛んだ。自分で背中を押しておきながら、嫉妬に駆られるなんて、情けない。

 泣きそうな顔を見られたくなくて、私はそっとその場を離れた。無駄に広い庭園を、あてもなく少し歩かせてもらうことにする。

 視界には、完璧に手入れされた四季折々の花々が咲き誇っていた。花は好きなはずなのに、今の私には、それらがちっとも綺麗だとは思えなかった。
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