偽王子と、甘い偽恋
腹黒王子と夢見がち姫のジェラシー。
「しばらく実家から出勤するから」


 ガーン。

 出た、臣くんの家出る宣言。もうこれで何度目だろうか。

 何度通告を受けても慣れることはなく、そのたびに特大のショックを受ける。


「な、なんでえええ!?」

「毎度その反応しなきゃダメかよ」

「ダメだろ!」

「そうかよ」


 私の絶叫を適当にいなしながら、彼は暢気に無駄にでかいソファに座り、無駄にでかいテレビを眺めている。

 私はそこへすすす、と静かに擦り寄った。


「ちなみに理由は?」

「親父に監視されてんだよ。ちゃんと俺が奥平さんに会うか。くだらねぇマジで。何で、ここを離れなきゃなんねぇんだよ」


 舌打ちしながら不機嫌そうに吐き捨てる臣くんに、私は思わず感動した。

 だってそれって、遠回しに「りりかと離れたくないよ~」って駄々をこねてるってことでしょ? 可愛い臣くんめっ!

 そんな解釈をしながら「私も離れたくないよ~!」と勢いよく抱きつこうとした、その時…。


「実家から会社、無駄に遠いんだよ。クソが」


 王子のおの字もない言葉遣いで、私と離れることではなく、通勤への不満が漏れていて、私は盛大にずっこけた。


「ね、ねぇ?臣くん?」

「あ?」

「りりかとも、離れたくないよね?」


 自分に指を差し、期待を込めて問いかける。すると彼は、これ以上ないほど眉を顰め、「何言ってんだこいつ、勘違いも甚だしい」という心の声が聞えてくるような、そんな気がした。


「何言ってんの、お前。勘違いも甚だしいな」


 あ、言いました、こいつ。言ったわ。


「そこは嘘でも寂しいって言えや~~~~~!」


 私は叫びながら、ソファに置いてあった分厚いクッションを振り上げ、何度も何度も臣くんを殴りつけた。彼は相変わらず「いてぇ! このじゃじゃ馬!」と喚きながら、腕で必死に頭をガードしている。

 誰がじゃじゃ馬じゃ、この偽腹黒王子が。
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