偽王子と、甘い偽恋
 そんな喧嘩をした翌週の会社。

 私は負のオーラを全開にし、キーボードを叩き壊す勢いで文字を打ち付けていた。そんな私を、いつものごとく渋谷さんが口をぽかんと開けながら眺めている。

 話しかけるのを躊躇しているのか、ただ遠巻きに見ているだけ。


「…話しかけるのはOKな感じ?」

「なんすか」

「うわ、いつも以上に不機嫌」


 不機嫌なのを分かっていて不機嫌と指摘してくる野郎に、碌な男はいないんだよ。あ、佐々木さん、彼氏をディスってごめんなさい。

 佐々木さんは一ミリも悪くないので、心の中でしっかりと謝罪だけはしておいた。むしろ、時折佐々木さんですらゴミを見るような目で渋谷さんを見ているので、これくらいは許されるのではないかと思う。


「今回は何?」

「また臣くんが出ていきました」

「お前の彼氏、定期的にいなくなる猫か、なんかなの?」


 気まぐれさだけは瓜二つだけれど、猫のような可愛さは一ミリも持ち合わせていない。悪魔だ、あいつは。


「何で出てった?喧嘩?」

「…彼には、婚約者がいるんです。それはそれは綺麗な」

「御曹司にありがちな展開な」

「いかにも。そのヒロインが」

「ツッコみどころ多い話し方やめろや。話進まねぇ。テンポ感わりぃ」


 注文の多い先輩だ。私は小さく舌打ちし、話を続けた。
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