偽王子と、甘い偽恋
「その、彼の婚約者が、臣くんの事好きで、始まる前に終わったことが納得いかなくて、一回でいいからデートしろって臣くんに食い下がったんです」

「ふーん」

「別にそれは百歩譲って良いんですけど、私は信じてるので。

でも、臣くんが家を出なきゃいけなくなったのは、彼の父親が彼を信じていないから、その一度のデートにすらすっぽかすんじゃないかって思って、監視目的で一度実家に連れ戻されてるんです」

「それはまあ、すげぇ父親だな」

「でしょ?それで、そのデートが終わるまで、臣くんは今は実家に」


 そこまでを渋谷さんに話すと、彼はモニターを見ながらマウスを動かし、何度かクリックを繰り返しながら「ふーん」と再度、気の抜けた声を漏らした。

 信じてはいる。だけど、やっぱり嫌だ。こんな風に強制的に離れ離れにさせられて、他の女性とデートをさせられるなんて。


「監視されるほど、何をしたわけ?」

「会社なんか継がないって、二年間逃げたんです」

「ああ、なるほどね」


 その一点において、確かに臣くんの信用は地に落ちているのかもしれない。だからといってこんな強引なやり方で婚約を進めていい理由にはならない。

 それに、私にはどうすることもできない。自身の非力を恨みながら考え事に耽っていると、不意に私のスーツにシュッと何かが吹きかけられた。

 驚いて隣の渋谷さんを見ると、彼はなぜか香水瓶を手に持っており、涼しい顔で蓋を閉めている。


「…何してるんですか」

「え?臣くん早く帰ってこいのおまじない」

「絶対嘘ですよね?」


 そう問いかけても、返事は返ってこない。

 こうやって何かを企んでいる時の渋谷さんは、毎度ろくなことがない。
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