偽王子と、甘い偽恋
夢見がち姫、夢から醒める。
 週明けのことだった。仕事の準備をしていた私に、臣くんが後ろから音もなく寄ってきたかと思うと、シュッと聞き覚えのある音が鳴った。

 その音に反応して臣くんの方を振り向くと、私の首筋に香水が振りかけられていた。


「…今度は何なの」

「あほな先輩に言っとけ。くっせぇ香水振りかけんなって」

「……」


 それだけ吐き捨てると、臣くんは何食わぬ顔で自分の準備に戻っていく。

 独占欲の塊じゃねぇか。

 そう思いはしたものの、口には出さず、用意を進めた。






⋆ ˖ ⏱︎.ᐟ







 
「まあまあ、ご丁寧な牽制を頂いてなにより」


 私から嗅ぎ慣れない香水の匂いがしたからか、渋谷さんは苦笑いしながら隣の席に腰を下ろした。


「すっごくお怒りでした。おかげさまで。香水が臭いって」

「臭くはねぇだろ。悪口言いたいだけじゃん」


 渋谷さんの軽口を聞き流しながら、あの日の夜のことを思い出して急に顔が熱くなった。

 普段、あそこまで剥き出しの嫉妬をされることはなかなかないから、新鮮だったのと同時に、満たされた瞬間だった。

 わざと嫉妬させることには罪悪感も抱くけれど、それでも愛されていると感じたとき、彼のことが尚更愛おしくなる。

 意識をどこか遠くへ飛ばしている私に、渋谷さんは呆れたような表情を向けていたけれど、私はそれに気づかないふりをしたまま、あの熱い夜の余韻に浸って、ただうっとりと思いを馳せていた。
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