偽王子と、甘い偽恋
 その日の帰り道、いつも通りまっすぐ帰宅しようとしていた時のことだった。

 突然後ろから「あ、いたいた」と声を掛けられ、振り向くと、そこには臣くんのお母さまがにこやかに手を振ってこちらに近づいてくるところだった。

 まさかの人物の登場に、私の口は開いたまま塞がらない。


「臣くんのお母さま!?」

「りりかちゃん、ごめんなさいね。突然で」

「あ、いえ!どうなさいました?」


 問いかけると、彼女は少しだけ含みを持たせて笑い、「そこのカフェに入らない?」と私を誘った。

 誘われるがままひとまずカフェに向かう道すがら、臣くんには«少し帰るの遅くなるね»とだけメッセージを送り、横を歩くお母様の様子を伺う。

 突然、どうして会いに来たのだろう。
 こんなことは今まで一度もなかった。
 もしかして、「臣のことを諦めてくれ」とでも言われる?

 最悪の事態を勘ぐりながら、カフェの店内で注文したホットミルクティーを前に、向かいに座る相手をじっと見つめる。

 私の反応を見て、何かを察したのか柔らかく笑みを向ける。


「そんな身構えないでね。臣をあきらめろなんてそんな話をする気はないから」

「え?」

「急に来たら緊張するわよね」

「あ、はい。それはすっごく」

「素直でいいわね」


 私の正直すぎる反応に、くすくすと上品に笑うお母様を見て、不意に似ていると思った。

 笑った時に下がる目尻や、纏っている柔らかな空気感が、臣くんにそっくりで。
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