偽王子と、甘い偽恋
「ずっと謝りたかったの。あの人の暴走を止めることが出来なくてごめんなさいって」


 "あの人"とは、間違いなく臣くんのお父様のことだ。
 臣くんが政略結婚を強いられている元凶は、お父様にある。
 だけど、それを彼のお母様が謝罪する理由はどこにも見当たらない。


「あの、どうしてお母様が?」

「もっと強く止められたらよかったんだけどね、言っても聞かなくて…。臣にもだけど、りりかさんにも嫌な思いをさせてしまったなって」

「いえ…、そんな」


 真っ直ぐに謝られても、どう返せばいいのか戸惑ってしまう。

 誰か一人が絶対的に悪い、という単純な話ではないと思う。


「あの人も、必死なのよ。会社を存続させなきゃいけない。そして、それを継ぐ臣にどれほどのプレッシャーがかかるかも分かっているから、あの子に苦労をさせたくないのね」

「…そう、ですよね」

「社長になるということは、従業員全員の人生を背負うということ。もし会社が傾けば、その重圧に押しつぶされてしまう。そんな目に遭わせたくなくて、あの人は臣のためだと思い込んで、今の婚約を押し付けてる」


 確かに、大企業の令嬢と結婚すれば、臣くんの会社は今よりもずっと安泰に近づく。

 将来への不安は軽くなり、経営の土台も今よりも確かなものになる。

 相手は私と違って、地位も人脈も、臣くんを支えるための武器をすべて持っている。だから、臣くんに何かあっても、きっと助けになる。


「私は、そんな後ろ盾がなくても臣はうまくやれるって信じてるんだけどね。あの子には、自分が選んだ人と幸せになってほしい」


 お父様もお母様も、アプローチこそ真逆だけれど、根底にあるのは同じ親心だ。

 臣くんは、不器用なほどに両親から想われている。
< 151 / 177 >

この作品をシェア

pagetop