偽王子と、甘い偽恋
 そんな会話を終えて、家に帰ってきたところだった。

 すでに玄関には臣くんの靴があり、彼はもう帰宅しているようだった。


「ただいま~」


 声を掛けると、リビングにつながるドアが開き、中から臣くんが顔を覗かせた。


「おかえり。何してた?」

「あ、ちょっと同僚とお茶だけ。相談に乗ってもらってた」


 お母様が会いに来ていたことは、なんとなく今は言わない方がいい気がして、咄嗟に嘘を吐いた。

 そのまま洗面台に向かって手を洗いながら、私はひとり考え込んでいた。

 会社の事とは別に、臣くんの気持ちのことだってある。

 彼が私を望んでくれる限り、私も彼と一緒にいたい。

 そもそも政略結婚なんて、私はくそくらえだと思っている。

 お父様の言う会社の安泰はもちろん大切。
 それは臣くん一人の問題ではなく、多くの従業員の人生に関わることだから。

 だけど、彼自身の幸せは、会社の安定だけでは決して得られない。
 そのどうしても埋まらない部分を、私が埋めてあげたい。

 それに結局のところ、どんな高尚な理屈を並べたとしても、私だって彼を諦めることなんて、絶対にできない。

 人生で初めて好きになれた人。私だって自分の人生我儘に生きたいし、そもそも、姫はいつだって我儘なものだ。

 何を言われても絶対に手放したくないものくらい、誰にだってあるでしょう。
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