偽王子と、甘い偽恋
「ごめんなさいね。出会って早々こんなんで。うちのパパどんくさいから」

「誰がどんくさいって…」

「パパでしょ」


 母の一蹴。うちの母は強い。

 一言で父を黙らせると、臣くんに向かって「座って座って!」と上機嫌で席を案内する。


「あの、こちら、りりかさんから和菓子が好きと聞いていたので」


 そう言いながら、臣くんが紙袋から取り出したのは、都内でも有名な超高級和菓子店の包みだった。

 箱からして放たれるオーラが違う。うちの家族全員、思わず目を細めて拝むように見つめてしまった。箱に後光が差して見える気がする。


「こんな高級なもの、ごめんなさいね…。うち近所のケーキ屋で買ったケーキなんだけど、お口に合うかしら…」

「ケーキ好きです。いただきます」


 さらりと完璧な回答を返し、私の隣に腰を下ろす臣くん。それを向かい側から親の仇のように睨みつける父。キッチンからは、鼻歌混じりにコーヒーを淹れる母の音が聞こえてくる。

 …カオス。

 臣くんがふいに私に擦り寄り、耳元に顔を近づけて囁いた。


「お前の母さんに気に入ってもらえれば勝ちってことであってる?これ」


 もう攻略法を見つけてやがる。

 緊張のきの字もなさそうな様子に、改めて末恐ろしい男だと思い知らされた。


「あってるけど、そんな戦略的にしないでよ」

「ちゃんと周りが見えてるって言ってくれな」


 余裕たっぷりに笑う臣くんの肩を、私は軽く小突いた。

 楽しそうに目を細めて笑う彼の顔が、憎らしいほどに可愛くて困ってしまう。
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