偽王子と、甘い偽恋
 父をじっと睨みつけるように見て、私も負けじと睨み返した。歯を剥き出しにして威嚇すると、案の定、父はすぐに怯む。さらに追い打ちをかけるようにふんっと鼻息を鳴らすと、父はすっかり小さくなってしまった。

 そんな時、母がケーキとコーヒーを臣くんの分から順番に、テーブルへ並べていく。


「さ、これは根掘り葉掘り聞いていいのよね?」

「少しは遠慮してよね、ママ」


 私の忠告など、耳を素通りして、母は「どこで出会ったの?」と、食い気味に臣くんへ問いかけていた。

 この母親、本当に人の話を聞かないんだった。


「出会いは、カフェですかね。りりかさんは、僕が働いていた店の常連で」

「ぷぷぷ、僕って」


 聞き慣れない一人称に小さく吹き出すと、臣くんに思い切り脇腹をつままれた。「ひゃんっ」と情けない声が漏れる。


「ちょっと、どうしたの?りりか」

「な、なんでもない!」


 隣の偽王子は、何食わぬ顔でにこにこと微笑みを浮かべているだけ。

 この化けの皮、今すぐ剥がしてやろうか。

 そう思いつつも、私は大人しくケーキにフォークを刺した。


「ということは、今もカフェで?」

「あ、いえ。今は千早グループの一つある電機メーカーの会社に勤務しておりまして、自分こういう者です」


 そう言いながら、彼はスーツのジャケットから手際よく名刺入れを取り出し、名刺を差し出した。

 この男、絶対に用意してた。確信犯だ。

 母と父は、差し出された名刺の肩書きを見て、同時に目を見開いた。


「だ、代表取締役…?」

「はい。まだ勉強の身ではありますが」

「えええええええええ!?」


 自分でも既視感のあるリアクションに、私は思わず手で顔を覆った。

 母の反応が私に似すぎていて、親子であることを実感させられる。
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