偽王子と、甘い偽恋
⋆ ˖ ⏱︎.ᐟ


 そのまま臣くんの実家へ滑り込むと、彼は私の手を引いたまま、迷いのない足取りで邸内をどんどん進んでいく。

 一度も立ち止まることなく、真っ直ぐに目的の場所を目指すその背中。


(というか、部屋数が多すぎてどこに何の部屋があるのかさっぱりわからん…)


 あまりに場違いな感想を抱きながらも、引きずられるように着いていく。

 これから何が起きるのか、相変わらず説明は一切ない。

 だけど、プロポーズを受け入れた以上、再びここへ来る覚悟はできていた。それがまさか今日だなんて、想像もしていなかったけれど。

 ある部屋の前で足が止まり、ドアが開かれる。そこには優雅にお茶を嗜んでいる、臣くんのお母様とおばあ様の姿があった。


「何?どうしたのよ?」

「父さんは」

「まだ会社だけど」

「そう、なら会社に行く」

「え!?」


 驚く二人を余所に、臣くんは早くも背を向けていた。
 あまりの行動の速さに、私の理解が追いつかない。

 今の私、子供に振り回されているぬいぐるみみたいになってるんですけど、臣くん。

 二人の呆然とした反応を背中で受けながら、彼はようやく一度だけ振り返った。


「結婚するから。近い内に」


 それだけを言い放つと、再び歩き出す。

 背後から上がる驚きと戸惑いの声にも、彼は一切耳を貸さない。

 彼のやることはすでに決まっていて、そこに向けて突き進んでいる様だった。
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