偽王子と、甘い偽恋
⋆ ˖ ⏱︎.ᐟ


 そのまま車に乗り込み、辿り着いたのは臣くんが勤務している会社のビルだった。

 彼は迷いなくエントランスへと入り込み、警備員に社員証を提示する。
 警備員は即座に会釈をして、臣くんを通した。

 土曜日ということもあり、オフィス内にはあまり人の気配がない。
 広いフロアに、ちらほらと休日出勤をしている社員が見受けられる程度だ。
 臣くんはエレベーターに乗り込むと、迷わず最上階のボタンを押し込んだ。


「あ、あの、臣くん?今は、何が起きて…?」

「何も言わなくていいよ。俺が説明するから」


 それだけを告げられ、再びエレベーター内に静寂が漂う。

 何も言わなくていいって、…そんなのあり?

 臣くんの行動と言動に困惑しつつも、今は大人しく従っておくしかないと自分に言い聞かせた。

 チーン、という軽快な電子音が最上階への到着を告げる。
 扉が開くと、臣くんは再び私の手を引き、力強い足取りで歩き出した。

 このフロアは廊下までもが厚手の絨毯になっていて、足音が吸い込まれていく。しばらく進むと、会長室と記された重厚な扉の前で足が止まった。

 この中に、おそらく臣くんのお父様がいる。

 ノックくらいはするのかと思いきや、臣くんは躊躇なくドアノブを回し、そのまま中へと踏み込んでいった。

 この王子様、完全に暴走モードに入っちゃってるんですけど! 無敵かよ。

 恐れるものなど何一つないと言わんばかりの態度で、臣くんは驚愕の表情を浮かべてこちらを見るお父様の前に立ちはだかった。
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