偽王子と、甘い偽恋
 その日、家に帰ると、臣くんはまだ帰っていなかった。
 そんな状況も、今となっては別に珍しいことではない。

 最近の彼は、朝に私を会社まで送り届けると、その足で自分の会社へと出社し、帰宅は夜の十時前になるのが普段通りの出来事だった。

 平日に二人で過ごす時間が少ないのは、ほんの少しだけ寂しいけれど、その代わり休日のほとんどを私に費やしてくれる。

 寂しくないと言えば嘘になる。だけど、忙しい合間を縫って時間を作ってくれているのが分かるから、不満なんて一つもなかった。

 いつも通り手洗いを済ませて着替えを終えると、夕飯の下準備に取りかかる。

 その合間に、お風呂を沸かしたり、ドラム式洗濯機から乾燥の終わった洗濯物を取り出して畳んだり。

 毎朝セットして出れば、帰る頃にはふわふわに乾いている。

 その便利さといったら、もう楽で仕方がない。きっと、元の洗濯機には二度と戻れないだろうな。こうして人間は生活水準を上げていくのだなと、身をもって実感した。

 以前は安い洗濯機を回して、休日はベランダに干し、平日は浴室乾燥機を頼りに細々と乾かしていた。今は、あの手間が一切ない。

 ドラム式はサイズも大きいし値も張るけれど、それだけの価値は十分にある。もう手放せそうにない。

 そんなことを考えながらキッチンに戻り、料理の火加減を見に行く。家事は、以前はそれほど好きではなかったけれど、今は不思議と楽しくこなせている。

 こうして手を動かしている時間は、彼の奥さんをしているという実感が湧くから。今までだって一緒に住んで家事はしていたはずなのに、恋人という関係性だった頃よりも、どこか特別で、背筋が伸びるような感覚。

 きっとこれも、今は新婚ブーストがかかっているせいだろうけれど。
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