偽王子と、甘い偽恋
 そこまで準備を進めていると、ようやく玄関の鍵が開く音がして、臣くんが帰ってきた。

 私は手を止め、急いで出迎えに行くと「おかえり!」と勢いよく飛びつく。

 臣くんの身体は少しその勢いに押されながらも、しっかりと私のことを受け止めてくれた。


「毎日毎日飽きねぇな」

「飽きるわけないですとも」


 そう断言して、ようやく彼を解放する。

 どれほど抱き着いても、飽きるなんてことはあり得ない。

 これも新婚の内にしかできないことなのかもしれないけれど、いつか彼が帰ってくることが当たり前になって、出迎えにすら行かなくなる…、そんな未来が来るかもしれないと思ったら、それはすごく寂しいから、今はこの一瞬一瞬を全力で楽しみたい。

 そのままキッチンに戻って夕飯の仕上げをしていると、背後から臣くんの腕が回ってきた。バックハグの状態で鍋の中を覗き込んだかと思えば、なぜか彼の手が私のお腹のあたりを、ゆっくりと撫でている。

 何事かと首を傾げていると、「そういえばさ」とおもむろに彼が口を開いた。


「二か月前出したのに、妊娠しなかったな」

「なっ…!」


 この男は何を言い出すんだ!

 そのあまりにド直球な言葉で、二か月前の、あのお風呂場での出来事を鮮明に思い出し、顔が爆発しそうなほど熱くなる。忘れようにも忘れられない、あの夜。


「もっかいしとく?」

「しない!」


 完全に私を揶揄って楽しんでいる。

 結婚しても、こうして手のひらで転がされているのが、悔しいけれど、どうしようもなく愛おしい。
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