偽王子と、甘い偽恋
 私の必死の抵抗を鼻で笑うと、臣くんは私の頭に顎を乗せ、料理中だというのにそこからどこうとしない。

 ものすごく邪魔だけど、こうして甘えてくることはめったにないから、可愛い気もして何も言わないでおこうと思う。それに、こうして大きな体が背中に密着して、彼の体温がじんわりと伝わってくる感覚が、好きだったりもする。


「というかさ、臣くんは結婚式どう考えてんの?」


 今日、渋谷さんと話したことがずっと気になっていて、何気ない風を装って話を振ってみた。


「挙げたいんだろ?どんな風にしたい?」

「え?」

「え?ってなんだよ」


 あまりに迷いのない返答に驚いてしまう。

 聞き返した私に、臣くんが怪訝そうに眉を顰めた。


「会社関係とか、家のことで決まりは無いの?」

「そんなもんより本人の意思だろ」

「確かにね!」


 そうだ、この人はこういう人でした。

 世間体やしがらみなんて、彼にとっては二の次。
 自由気ままに生きる猫みたいな男なのだった。

 それに、私の返事を待つまでもなく挙げる前提で話が進んでいる。私が心のどこかで式を望んでいることを、彼はちゃんとお見通しだったみたい。


「私は、家族式にしてもいいし、大事な人だけを呼んでもいいし、二人きりでもいいかななんて、思ったりもしてるよ」

「へぇ、意外。豪勢にやりたいのかと思ってた」

「付き合う前までは、そう思ってたんだけどね。でも、結婚して、今は臣くんのタキシード姿を独り占めしたい気持ちもあって」


 正直な気持ちを口にすると、背後から回されていた腕に、ほんの少しだけ力がこもった。
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