偽王子と、甘い偽恋
 そんな争いをした後、私たちは向かい合って朝食を食べる。
 献立は、トーストとサラダ、それに目玉焼きとヨーグルト。

 臣くんは食事を口に運びながらも、先ほどの一件が尾を引いているのか、こちらに鋭い視線を向けてくる。気まずくて仕方がない。

 私は臣くんからそっと視線を逸らし、イチゴジャムを塗ったトーストを小さくかじる。


「本当、信じらんねぇ。普通抱き寄せてただけで枕で殴ってくるかよ」

「抱き寄せてた男が悪いと思います…」

「あ?」

「ごめんなさい」


 流石に暴力は良くなかった。今の私の立場は、客観的に見てもものすごく弱い。それ以上に言い返せる言葉など、どこにもなかった。

 臣くんは呆れたように深く溜息を吐く。重苦しい空気の中、なんとか朝食を完食した私は、その場から逃げるように洗い場へ向かった。

 洗い物をしながら顔の熱を逃がそうとしていると、後を追ってきた臣くんが空いた皿をシンクに置き、そのまま後ろから私の腰に手を回した。

 気軽に触れてくるその手に、体が強張る。


「今日、俺仕事なんだけど、帰り何か買ってくる?」


 耳元で囁かれた、なんてことない問いかけ。なのに、まるで同棲しているカップルのような会話の内容に、再び頬が熱くなる。


「…別に、何も」

「今日休みだろ。晩飯作って待っててよ」

「な、んでさ!」

「今は俺の彼女だろ。料理で疲れた彼氏を癒してくれてもよくね?」


 彼女なんて響きに唖然とし、私は後ろにいる臣くんを振り返る。

 臣くんも私の顔を覗き込んできていた。
 その瞳の奥には、どこか私をからかうような色が浮かんでいる。
< 29 / 177 >

この作品をシェア

pagetop