偽王子と、甘い偽恋
「せめて、何食べたいとか言ってよ…」

「料理出来んの?りりか」

「…クックパッドに頼ればちょちょいのちょいよ」

「もっとかわいい言葉遣いしろよ。ちょちょいのちょいって…」


 どうして臣くんの前になると、こんなにも可愛くない自分しか出てこないのだろう。

 いつもなら、もう少しあざとさを狙って演技だってできるはずなのに。臣くんの前だと、どうしたって空回りしてしまう。

 もう少し、私は自分を偽ることができる人間のはずなのに。
 …まあ、彼相手に今さら偽る理由なんて、どこにもないけれど。


「じゃあ、定番にはハンバーグでも作ってよ」

「ハンバーグ?」

「結構好きなんだよな。後、今日は前の家に荷物取ってくるから、帰りは二十時くらい」

「遅いんだね?」

「十時に出勤して終わり十九時。それから家寄ってだから、大体二十時」


 説明を聞きながら、私は皿をスポンジでこすっていた。

 ハンバーグなんて、一人暮らしでよほど自炊を頑張る人じゃないと、なかなか作らないかもしれない。決して難易度が高い料理ではないとはいえ、手の凝りようはいくらでもある。そもそも、人に食べさせる料理を作る機会なんて滅多にないから、ほんの少しだけ緊張した。


「わかった。りりかさんのおいしいハンバーグを食べさせてやろう」


 私が少しふざけて言うと、臣くんはふっと笑みをこぼして、私の頭を優しく撫でた。


「楽しみにしてるわ。じゃあ、準備してくる」


 彼はそう言い残して離れ、洗面台へと向かっていった。

 カフェ店員は土日祝に関係なくシフト制で動いている。
 カレンダー通りに動く私とは、あまり休みが合わなさそうだった。
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