偽王子と、甘い偽恋
 二十時に料理を完成させ、テーブルに並べていると、ちょうど玄関の開く音がした。

 こういう時、出迎えに行くのが正解なのだろうか。

 でも、別に本当の恋人ではないし。恋人ではないけれど、仮の恋人みたいな契約も結んでいるし…。

 うじうじと悩んでいるうちに、出迎えるタイミングなんてすぐになくなってしまう。

 やけだ!と思い切って玄関に向かうと、臣くんがちょうど靴を脱いで上がってくるところだった。

 そこまで出迎えて、ふと疑問が浮かんだ。


「え、ねぇ、今どうやって入ってきた?」

「え?鍵」

「…鍵なんて渡した?」

「勝手に合鍵っぽいのあったから持ってった」

「なんでよ!」


 言われてみれば、確かに渡した。だから、そこに置いてあったものを彼が自分で持って行っても変わらないことかもしれない。だけど、せめて一言言いなよ!と文句を言いたくなるこちらの気持ちも分かってほしい。

 結局「おかえり」なんて言葉は出てこず、意識のすべてを鍵の方に引っ張られた。


「いいにおいする。もう飯出来てんの?」


 少し大きめのバッグを持って上がり、彼は荷物を寝室の方へ置いた。

 その荷物を見て、本当に彼がしばらくここに居座るつもりなのだと、改めて実感が湧いてくる。


「できてるよ。手洗ってきなよ」

「はいはい」


 軽い返事をしながら洗面所に向かう背中を見送り、私は水などの用意を始めた。
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