偽王子と、甘い偽恋
胸やけしそうなほどの甘さ。
「は、正気?」


 渋谷さんに臣くんの話をすると、彼は唖然とした様子でこちらを見ていた。


「まあ、慣れ行きといいますか…」

「…絶対本田さん、近いうちに高いツボ買う」

「なっ…!」


 渋谷さんの呆れ果てた指摘に、思わず間抜けな声が出た。

 幸い、周囲の注目を集めるほどの音量ではなかったけれど、私は慌てて自分の口元を両手で抑え込む。


「危機感がなさすぎる。あまり知らない男。その上、宿借りる代わりに、その間は理想の恋人になるって…。そんなん遊ばれてるだけだろ」


 言いたいことはよく分かる。恋愛経験もなく、ここまでこじらせた女が物珍しくて、少しからかってやろう。彼はそんな軽い気持ちなのかもしれない。

 だけど、それでもいいと思った。

 私だって、まだ彼に本気で恋をしているわけではない。彼氏ができたらどんな感じなのか、それを知りたいだけの、ただの興味本位。


「どうせ、すぐに終わります。こんな関係も、長続きはしませんから」


 私の言葉に、渋谷さんはちらりと視線を向けたが、それ以上は何も言わなかった。

 いつか終わることは、最初から分かっている。

 だから、お互いに遊びでいい。むしろ、最初から遊びだと割り切っている方が、本気にならずに済む。
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