偽王子と、甘い偽恋
 退勤後、まっすぐ帰宅した私は、鍵穴に鍵を差し込み玄関のドアを開けた。「ただいまー」と声を掛ける。

 今日は臣くんが早出の日だったから、もう家にいるはず。

 洗面台で手を洗ってからリビングに向かうと、意外なことにキッチンに臣くんが立っていた。


「…へ?何してんの?」

「何って、料理」


 彼はそう答えながら、菜箸でフライパンの中身を器用に炒めている。

 まさか臣くんが料理をしてくれるなんて思ってもいなかった。

 そっと近寄って中を覗くと、どうやらカルボナーラを調理しているようだった。


「え、天才すぎ~~!カルボナーラ好き!作れるのすごいね!」

「一応カフェメニューにあるから」


 彼はそう言いながら、調理の合間に片手でスマートフォンのショート動画を眺めている。

 そんな適当な姿ですら絵になってしまうのは、一体どういう理屈なのだろう。

 料理をする臣くん。なんとか写真に収めたいと、私はこっそりスマートフォンを構えた。

 カメラの気配に気づいた臣くんが、ふっと完璧な笑みを浮かべてサービスショットをくれる。私は連写を浴びせながら、その笑顔を肉眼でもしっかりと凝視した。


「きめぇ」

「きもくない!顔面国宝を前にしたら女子全員がこうなります」

「顔面国宝とは」


 私の言葉にツッコミを入れつつも、彼は再びフライパンの中に視線を落とした。

 イケメンの料理姿。これは、目の保養以外の何物でもない。
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