偽王子と、甘い偽恋
 それから夕食の片付けを終え、風呂も済ませて、寝る準備を整えていた時のことだった。

 私はまだ濡れた髪を乾かしてもおらず、リビングのローテーブルに鏡を置いて、胡坐をかきながらスキンケアに勤しんでいた。

 そんな私の姿を見た臣くんが、おもむろにドライヤーを持ってきてコンセントに差し込むと、私の髪に指先を差し入れて乾かし始めた。

 まさか、そんな風に甘やかされるなんて思ってもみなかった。


「臣くん…」

「次の週末だけどさ」


 唐突な話題の切り替えに、お礼を言うタイミングを完全に見失ってしまう。


「うん?」

「土曜日休み取ってきたんだけど、デート行かね?」


 まさかの発言に、思考がフリーズした。デートなんて言葉、彼の口から飛び出すとは思っていなかったから。

 そもそも、そんな風に先の予定を考えてくれる人だとも思っていなかった。だって、私達が本当の恋人のように過ごすなんて、どこか変なことだと思っていたから。


「な、なんで?」

「男に慣れさせてやるって言ったろ。りりかに合わせて土曜に休み取ったから、行かないとか言うなよ」


 そう言いながら、彼は私の髪を丁寧に乾かし続けてくれる。


「どこ行くつもり?」

「行きたいところねぇの?理想のデートみたいな。その日はとことん付き合ってやるつもりだけど」

「え、じゃあ、臣くんがかんが…」

「チッ」


 考えるのは面倒なのか、思い切り舌打ちされた。

 私のことを「姫じゃない」なんて普段から言ってくるけれど、この人も普段は王子様みたいな爽やかキャラで通しているくせに、まったくそうはなりきれない人なのだと思う。
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