偽王子と、甘い偽恋
 私の話を聞いていた佐々木さんが、少しだけ微笑みをこぼして「好きになってきてるんじゃないですか?」と呟いた。

 その言葉に驚いて隣を見ると、佐々木さんはなんてことのない顔をしている。


「誰かの特別を知って、それを独り占めできて嬉しいと感じる。そんな独占欲が湧くのは、本田さんもあの人に対してどこか特別な感情を持ってるってことなんじゃないですかね?…私も恋愛なんてほぼしてないようなものなので、憶測でしか言えなくて申し訳ないのですが」


 そう言われ、私はカウンターの中の臣くんを見た。

 好きじゃない。あんな顔が良いだけで性格はめちゃくちゃな男。

 そう自分に言い聞かせているけれど、胸の奥のもやもやとした感覚は拭えない。

 レジに並び、カフェオレを注文する。
 やがて臣くんが私に気づいた。

 一瞬だけ、こちらを見て動きを止めたようだったけれど、すぐにいつもの営業用の笑顔に戻る。


「お昼休みですか?いつもお疲れ様です」


 彼はそう言いながら佐々木さんにも爽やかに声を掛け、まずは彼女のカップにカフェオレを淹れた。それから私のカップを手に取ると、何かをさらさらと書き込み始める。

 何を綴っているのか覗き込もうとしたけれど、手元に隠れてよく見えない。

 書き終えると、彼は佐々木さんの時と同じ手順でカフェオレを淹れ、私の方へと差し出した。受け取ろうとしたその瞬間、周りに気づかれない程度にそっと手を撫でられる。

 驚いて声を上げそうになるのを必死で堪えると、臣くんはくすっと笑った。


「午後も頑張ってね」


 爽やかに声を掛け、手を振ってくる彼。

 私はぎこちなく頷き、佐々木さんと一緒に店の外に出た。
< 45 / 177 >

この作品をシェア

pagetop