偽王子と、甘い偽恋
 その日の帰り、臣くんは宣言通り会社の前まで迎えに来てくれた。
 来るか来ないか半信半疑だったけれど、彼は本当にそこにいた。


「おまたせ」

「マジで待った」

「外ではだれが見てるかわからないので、裏を出さないように」

「だる」


 彼はそう毒づきながらも、私の隣に並んで、自然に手を絡め取ってきた。

 不意打ちの接触に驚いて、「きゃあ!」と少し大きめの声が出てしまう。

 臣くんは眉をひそめて、心底面倒そうにこちらを見た。


「何」

「手、手!」

「手くらいで騒ぐなよ」


 またその冷めた目で見られたことが、堪らなく恥ずかしい。

 まさか手を繋いだだけで、自分がこんなにうぶな反応をするなんて思ってもみなかった。

 繋がれた手のひらに、一気に汗が滲んでくるのを感じて余計に赤面する。


「で?土曜日、どこ行くか決まった?」

「何もまだ。あ、でも駅前で待ち合わせがいいです」

「はあ?何で一緒の家に住んでるのに、そんなまどろっこしい事」

「付き合いたてに待ち合わせは醍醐味でしょうが!」

「どこでキレてんだよ…」


 彼はそう文句をこぼしながらも、繋いだ手は決して離さず、家の方へと歩き出した。

 こうして二人で同じ場所に帰っていくのも、なんだか照れくさかった。
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