偽王子と、甘い偽恋
「本田さんの努力自体は否定しないし、いいことだと思う。だけど、あれってフィクションだから、憧れるわけで、現実にはない。というか、現実にそんなのが山ほどあったら憧れないだろ」

「それは…、そうかもしれないですけど……」

「それに、実際そこまで憧れに向かって努力したところで、叶わないことばっかだよ。憧れてたら上手くいかないと思う」


 渋谷さんはいつも軽薄なノリで話すことが多いけれど、今は静かな声で、どこか重みを持って話していた。その言葉には、説得力があった。

 確かにここまで努力したのだから愛してもらえるはずなんて、どこか計算で動いていたのかもしれない。物語のヒロインたちは純粋に、必死に愛を追い求めているというのに、打算を挟んでいる時点で、私はきっと本当の恋を知らないのだと思う。

 そんな打算で成り立つ恋なんて、何が楽しいのだろうか。

 駆け引きを楽しむ恋もあるのかもしれないけれど、私の場合は憧れが強すぎるあまり、自分の理想に近付くことしか頭にない。

 "恋に恋する"とは、まさに今の私のことを言うのだと思う。


「…難しいですね」

「憧れの人はいますか、なんて小学生の時クソみたいなお題で作文書かされて発表するけどさ、憧れてもそいつにはなれないのにな、と思いながらいつも人の作文聞いてた」

「…本当渋谷さんって、絶対小学生の時可愛くない小学生だったでしょう」

「現実見てるって言ってほしいけどな。夢見る少女の本田ちゃん」

「揶揄うのやめてください!」


 鼻で笑う渋谷さんに言い返し、私もキーボードを叩く。

 憧れることは悪くないと思うけれど、私の場合はその想いが強すぎて、逆に自分を追い詰め、拗らせてしまった。

 何事もやりすぎ、思い込みすぎはよくない。
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