偽王子と、甘い偽恋
⸝⸝꙳


 何度言っても金銭を受け取ってくれない結愛さんに心残りはありつつも、臣くんとの待ち合わせに遅れてしまうため、私は出発の準備を整えた。


「なあ、ちょっと遅れてけば?」

「え?」


 渋谷さんの言葉の意味が理解できなくて、私は困惑する。

 どうして、わざわざ待ち合わせに遅れるような真似をするのか。


「何でですか?」

「いつも振り回されてる男を振り回してやればいいよ。そんだけ可愛くしてんだから怒んないと思う」

「え?でも、嫌がられません?」

「大丈夫だって。多分待たされてる間はイライラするだろうけど、今日はこっちが振り回す気で、こっちのペースに持ってくためにちょっとゆっくり行きな。そんで会ったら、デートらしくこっちから腕の一つ組んでやればいいよ」


 そんな渋谷さんのアドバイスに、「…なるほど!」と頷きながら話を聞く。

 背後で、佐々木さんと結愛さんが呆れたような表情を浮かべていた気もするけれど。

 
「で、デート終わった後、どこでもいいから相手の前で十秒くらい目瞑ってみ」

「何でです?」

「いいから。その代わり思いっきり振り回して、思いっきり可愛い女でいるのが条件だから。その日最悪なのにそんなことしてもキレられるだけだし」


 渋谷さんの言葉の真意は分からなかったけれど、首を傾げつつも「わかりました」と返事をして、私はあえてゆっくりとした足取りで待ち合わせ場所へと向かった。

 臣くんとのデート。なんだかんだ言って、彼の反応を想像したりするのも楽しみなのかもしれない。ほんの少しだけ、彼が私のことを可愛いと思ってくれるか、なんて期待が胸に混じる。
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