偽王子と、甘い偽恋
⸝⸝꙳


 駅前に到着すると、遠くからでもすぐに分かるほどに整った顔立ちの男の人が、不機嫌そうにスマートフォンの画面を眺めていた。

 今日の臣くんは、グレーのTシャツにヴィンテージ風のルーズなチェックシャツを羽織り、黒のダメージデニムを履きこなしている。首元で小さく揺れるシルバーアクセサリーが、彼の肌の白さを際立たせていた。

 カフェの王子様とは違う雰囲気で、それでも目を引くほどお洒落な姿。想像していた通り、周囲の女性の目を引いていて、本人はそれすらも今は不快に感じているように見える。

 近くの女性たちが、いつ声を掛けようかと話し合っている空気。

 それでいて、手元のスマートフォンに届く臣くんからのメッセージは、画面が割れそうなほど不機嫌だった。


«何してんだよ。どこにいんの?»
«早く来いよ。このまま帰んぞ»
«せめて連絡くらいしろや»


 渋谷さん、本当にその作戦、合っていますか?
 彼、キレて帰っちゃいそうですけど。

 臣くんを狙うハイエナのような女性たちの視線。
 そして不機嫌の極致にいる臣くん。

 その二つが私を焦らせ、結局、五分を過ぎたところで急いで臣くんの元へ駆け寄った。


「ご、ごめんね!待った?」


 小走りで近づき声を掛けると、臣くんは不機嫌な表情をこちらに向けた。

 一度言ってみたかった憧れのシチュエーションをクリアしつつも、緊張のまま彼の前に立つ。

 臣くんはほんの少し目を見開いた後、先程の険しい顔が嘘だったかのように、優しい微笑みを浮かべた。


「待ってない。お洒落頑張ったんだね。可愛い」


 溶けるほど甘い声で、そんな言葉を投げかけてくる。

 …さすがに二重人格だろ。

 そう思いつつも、あまりにタイプに刺さりすぎて、私の心臓は一瞬で撃ち抜かれてしまった。
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