偽王子と、甘い偽恋
 しばらく歩いていると、フルーツジュースの専門店を見つけた。

 ちょうど喉が渇いていたし、フルーツジュースは好物だった。私は「ねえ、寄っていってもいい?」と、臣くんの腕を軽く引っ張る。


「いいけど」

「臣くんも何か飲む?」

「いい。りりかのちょっともらう」


 当たり前のように人のを奪う気なんだと呆れはしたけれど、そんな遠慮のなさを少しだけ可愛いと思ってしまう自分もいた。

 店内に入ると、色とりどりのフルーツジュースがメニューに並んでいた。内装はポップで可愛らしく、狭いながらもイートインスペースが設けられている。

 私は定番の、どろっと濃厚なフルーツミックスジュースを注文した。会計をしようとした瞬間、臣くんが自然な動作で電子決済を済ませてくれる。


「え、いいの?」

「いいよ、これくらい」


 そう言いながら、彼は飲み物が出来上がるのを待つ。その間、女性店員さんが臣くんの方をちらちらと見ていて、明らかに目を引いているのが分かった。

 確かにこんな美男子が店に来たら、どうしても視線で追ってしまうと思う。その気持ちはよくわかる。


「臣くん、お昼全然食べてないよね?お腹減ってる?」

「まあ、ぼちぼち。そんな耐えきれないほど減ってるわけでもないから、夜まで耐えてもいいけど。どっかで食ってくんだろ?それかテイクアウトして帰る?」

「家でゆっくりもいいけどね。せっかく外出たし、食べたほうが楽か。何食べて帰る?」

「さすがにがっつりしたもんがいい」


 そんな他愛のない会話を繰り返していると、店員さんたちが心底がっかりしたような顔をした気がした。

 どこかに付け入る隙があると思っていたのかもしれないけれど、一緒に帰ることを匂わせるような、生活感のある会話を聞いて諦めがついたらしい。
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