偽王子と、甘い偽恋
 陽が沈む頃、臣くんと話していた居酒屋に足を運んだ。

 店内はすでに混み合っていて、私たちはカウンター席に並んで座る。臣くんは生ビール、私は巨峰サワーを頼んで、料理が届く前にまずは乾杯した。


「たくさん歩いたから足ぱんぱん。帰ったらすぐお風呂貯めよ」

「普段立ち姿だから慣れてるけど、確かに今日はちょっと疲れた」


 そう答える臣くんを見ていて、ふと気になった。
 彼は他の女性とは、どんなデートをするのだろう。
 知りたいような、けれど知りたくないような。

 こういう時、聞いても欲しい答えが返ってこないことくらい、経験がなくても分かっている。なのに、どうしても好奇心には抗えなかった。


「…他の人とは、どんなデートするの?」

「はあ?何それ。聞きてぇの?そんなの」

「気になるよ。これも私が勉強するためだと思って聞かせてよ」


 重くならないよう、努めて軽く笑いながらそう言う。ちょうど店員さんが、カウンター越しに焼き鳥の盛り合わせを置いて立ち去った。

 臣くんはこちらを見ようとはせず、正面を見据えたまま生ビールに口を付けている。


「そもそも俺はそんな話したくないけどね、お前相手に」

「…何で?」

「別に楽しい話もねぇし。そもそもお前の憧れを叶えるって言って、そこに他人の話の参考が入ったら一気に萎える」


 確かに、誰かの真似をしたいと思えば参考にしたくなるかもしれない。

 だけど、そう考えた直後に臣くんの言葉を反芻して、ふとした違和感を覚えた。
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