偽王子と、甘い偽恋
 その間、少し無言の時間が続く。

 この時、初めて私は自分が渋谷さんに仕組まれたのだと気づいた。客観的に見れば、明らかにキスをせがんでいるような構図。実行するまでその事実に気づかなかった。

 急いで目を開けて離れようとした瞬間、臣くんにそのままぐいっと手を引かれた。目を開けるよりも先に、柔らかな感触が唇に当たる。

 ファーストキス。こんな形で、自ら招いたような状況で終わらせてしまうなんて、思ってもみなかった。

 臣くんにとっては、きっとこんなこと、日常茶飯事で何とも思っていないはずだ。だからこそ、躊躇いもなくできてしまう。

 彼から離れようとして、軽く胸元を叩く。こんな馬鹿な真似をした理由を、必死に弁解しようと思っていた。

 それなのに、臣くんはなかなか離れてくれなくて、それどころか唇を舌でなぞる。

 少しだけ身を引き、ようやく唇を離して「お…、みくん…っ…!」と名前を呼ぶ。だけど、彼は少し冷めた目で見下ろしたまま、決して私を解放しようとはしなかった。

 至近距離で見つめ合ったまま、彼はそのまま額をこつんと合わせてくる。


「なあ、今のどういうつもりでやった?誘ってんの?」

「いや…、違う、くて…」

「何が違うんだよ」


 問い詰めるような、低い声。

 なぜか臣くんには余裕がないように見えて、私の頬を包み込む両手が、微かに熱を帯びていた。


「…今日、実はこんなに可愛くしてくれた人がいて…。私を着飾るために先輩が部屋を貸してくれてね、そこにいた先輩がやってみろって…」

「…男?」

「それ、を言った人は、男性、だけど、ちゃんと女性もいて…」


 何でこんなに、浮気を詰められている人みたいな言い訳をしなければならないのか。

 臣くんが怒っているような気がして、私はしどろもどろに言葉を重ねる。その間、彼は答えることもなく、ずっとこちらを冷ややかに見下ろしていた。


「…へぇ?」


 低く、温度の低い声が降ってくる。

 あまりの冷たさに私が身を竦めると、臣くんは無言で私の手首を掴んだ。
 そのまま、有無を言わせない力強さで家の方角へと歩き出す。

 今、何が起きているのかわからない。
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