偽王子と、甘い偽恋
偽王子の甘い、独占欲。
 家の中に入るなり、玄関先で壁に押し付けられ、そのまま唇を塞がれた。

 先程のキスが可愛く見えてしまうほどに、激しく、深い。

 舌先で唇をなぞるなんて、そんな甘いものではなかった。強引に舌を口内へと差し込んできて、私が少しでも抵抗しようものなら、逃がさないと言わんばかりに壁へと強く押し付けられる。

 息の仕方もわからず、ただただ苦しい。

 わずかに唇が離れた隙に、「息しろよ。まだやめねぇから」と一言言い放たれ、再度重なり合う。舌が唇の隙間を縫うように侵入し、容赦なく絡め取ってくる。

 臣くんは私の手首から手を離すと、今度は私の両耳を塞ぐように、髪の毛に指を差し込み固定した。耳を密閉されたことで、生々しい水音がダイレクトに脳内へと響き渡る。

 その音に羞恥心を極限まで掻き立てられ、私はもう、何も考えられなくなった。

 しばらくの間、玄関先ではしたなく口付けを交わし続け、私の情けない声が時折、狭い空間に漏れていた。

 そしてようやく唇が離されると、至近距離で視線がぶつかり合う。


「な…、んで…?」

「今日、ずっとすげぇ可愛いから、ずっと手出さないように気を付けてたのに。散々人の事煽って覚悟はできてんの?」


 低く、余裕のないその問いかけに、ぞくっとしたものが背筋を駆け抜けた。

 可愛いなんて、この人にとっては深い意味のない言葉かもしれない。ただの男としての本能が、この状況に反応してしまっただけかも。

 だけど、どうしても、私だからこそ煽られたのだと、ほんの少しだけ期待したかった。

 臣くんが今、どんな考えでいようとも、彼の熱を孕んだ瞳に見つめられ、私はもう、逃げられなかった。
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