偽王子と、甘い偽恋
「私も本格的に恋しようかなと思ってさ」

「は?」

「でも会社に出会いはないし、マッチングアプリでもやってみようかと思って」


 そう話しつつドレッサーの前に座り、櫛で髪を解く。

 話している間の、臣くんの表情は見えない。

 鏡には、自分の顔だけが映っている。

 私がこんなことを口にしても、彼は何の反応もしないだろうけれど。

 そう思いながら寝る準備を整えていると、背後から足音が近づいてきた。

 不意に温もりに包まれ、私は少しだけ身体を固くする。


「やめとけよ。体目的の男しかいねぇから。真剣に恋愛しててもきっとかなり歳上のおっさんとかかもよ」

「今のまま、臣くんとこんな関係続けてるよりマシ」


 そう言い放って力なく笑うと、臣くんは無言になった。

 臣くんだって、そこに都合よく発散できる女がいたから抱いているだけだ。
 そんなの、マッチングアプリにいる男たちと大差なんてない。


「…なあ、まだ本気で王子様みたいな男がいいって思ってんの?」

「さすがに現実見るかなあ。そんな男性いればいいけどね」


 会話を切り上げ、櫛にまとわりついた髪を取り除いてゴミ箱に捨てる。
 そのままベッドの方へと向かった。

 もう、臣くんへの恋心を早く手放さないと。
 このままじゃ、私は一生幸せになんてなれない。
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