偽王子と、甘い偽恋
 臣くんのシャツを掴んで必死に耐えている間も、彼は収まるどころか、執拗に何度も私の唇を求めてきた。

 いつ誰が来るかも分からない場所で、はしたなく貪り合う。

 口の端から零れたものを逃さないように、臣くんは丁寧に吸い取った。

 ようやく少しだけ距離を置き、至近距離で目が合う。

 後頭部に回っていた手は私の頬へと添えられ、最後に優しく触れるだけの口付けを落とされた。


「…臣くん」

「…あっちを選ぶくらいなら、俺にしとけ」


 言っている意味が分からない。

 告白をされたわけでもない。好きだと愛を紡がれたわけでもない。

 それなのに「俺にしとけ」だなんて。
 私を選んでくれないのは、臣くんの方なのに。


「…どういう意味?」


 真意を知りたくて問いかけると、彼は何かを言いかけて口を噤み、私の肩に額を預けた。

 そのまま深く溜息を吐いて呼吸を整えると、再度私の顔を覗き込む。

 その表情はどこか可愛らしく、照れているようにも見えた。


「…うぜ」

「もう!なんなの!?意味わかんないってば!」

「ちゃんとその時になったら言う。だから、待ってろ」


 そんな強引な物言い。それだけ言い放つと、理解が追いつかない私を置き去りにして、彼は歩き出してしまった。

 一体、何が起きているのか。

 期待を持たせるような言葉を投げつけられたまま、一人取り残されたこの状況は。

 しばらく立ち尽くしていた私は、遠ざかっていく臣くんの背中を見つめ、ハッと思い出した。


「待ってよ!というか何で、こっちにいたの!?」

「うるさい」

「ええ!?」


 臣くんの返答は横暴である。
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