偽王子と、甘い偽恋
偽王子、姿を消す。
 突然だった。

 朝、いつも通り、彼よりも先に家を出て会社に向かった。

 そんな日に帰ってきたら、ローテーブルの上に«しばらく帰らない。合鍵は持っていく»と、たった一言だけ書き置きがされていた。

 こんなことは、当然初めてだった。

 出ていくのであれば、臣くんならきちんと説明をしてくれたはず。

 先日の期待を持たせるような発言があったばかりなのに、突然の失踪。

 ますます彼のことが分からない。

 あれ以来、態度は普通だったはずだし、喧嘩をした覚えもない。

 それなのに、唐突な「しばらく帰らない」宣言。

 「しばらく」ということは、放っておけばそのうち帰ってくるつもりなのだろうか。

 気になって連絡を入れても、返信が来る様子はない。

 何か事件に巻き込まれたのではないか、最悪の事態まで色々な心配が脳裏をよぎる。

 いつも彼は、言葉が少なすぎる。
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