偽王子と、甘い偽恋
 数日の話だと思い込んで待ち続けて、すでに二週間が経過していた。

 失踪した初日に送ったメッセージには、いまだに返事がない。

 仕事中も、気づけばスマートフォンを時折覗き込んでしまうほど、臣くんのことが気にかかっている。全く仕事に集中ができない。

 幾度目かの溜息を零すと、隣に座る渋谷さんが露骨に顔を顰めた。


「なあ、それやめて」

「え?」

「溜息。めちゃくちゃ聞こえてるから」


 そう言われ、慌てて口元を両手で抑えた。

 自分では、そんなに溜息を垂れ流しているつもりはなかったのに。


「…すみません」


 わかりやすく落ち込む私に、渋谷さんは顔を顰めたまま、どこか呆れたように口を開けてこちらを見ている。

 そんな彼の表情に、私も思わず眉を寄せた。


「何ですか。そのあほ面は」

「先輩に対して吐くセリフではねぇけど、ある意味いつも通りで安心したわ」


 渋谷さんはそう吐き捨てると、すぐに業務へと戻っていく。

 プライベートを仕事に持ち込むのはよくない。
 そんな常識的なことは、痛いほど分かっている。

 だけど、感情はそう簡単にはいかない。

 引きずるなと言われても、どうしても引っ張られてしまう。

 今の私には、感情の制御がうまく機能していなかった。
< 78 / 177 >

この作品をシェア

pagetop