偽王子と、甘い偽恋
「そしたら、千早先輩、言うんです。『君らには手に負えないと思う』って。千早先輩が女性のことを、そんな風に話すことなんてなかったから、お客様と千早先輩は何かあるなって、話題にもなってました」


 手に負えないなんて、失礼だ。
 まるで人を猛獣扱いするように話して。
 そんな当の本人は、私の近くに今いないというのに。


「そんな、何かあるってほどじゃ…」

「後、もう一つ言われてたことがあって、もしお客様が千早先輩のことを聞いてきたら、教えてもいいよって言われてたんです」


 その言葉の意味を計りかねて、私も軽く首を傾げる。


「教えてもいいよ、って?」

「千早先輩を探しに来たんですよね」


 ずばりと思考を見透かされ、顔が熱くなる。

 確かに以前は頻繁にこの店に通い、私も臣くんの営業スマイルを浴びに来ていた。

 平日はほとんど毎日通っていたし、噂になっていたのなら、知られていても仕方がない。


「千早先輩は、急遽ここを辞めてしまって…」

「…え?」


 何を言われたのか、一瞬理解が追いつかなかった。

 頭を鈍器で殴られたような衝撃が全身を走る。

 どうして、急に?

 問い詰める言葉すら出てこないほど、心臓が嫌な音を立てていた。
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