偽王子と、甘い偽恋
 そこで俺が考えたのは、彼女にふさわしい男になろうということだった。

 こんなケジメもつけられない情けないままじゃ、いつまで経っても彼女に相応しい人間にはなれない。そう痛感したからだ。

 だから、まずは俺の周りに取り憑いている、面倒なものすべてに向き合おうと決めた。

 突然家に帰ってきた俺に、母は少し安堵したような表情を見せたけれど、父の表情はどこまでも険しかった。そりゃそうだ。あの日、何もかも投げ出して家を飛び出していったのだから。


「何しに帰ってきた?」

「継ぐよ、会社」


 そう返した俺に、父はもう話を聞こうともしなかった。逃げ出すような男に、継ぐ資格なんてないと突き放されていることくらい、分かっている。


「ふざけたことを言っているのは分かってる。でも、よく考えた上で答えを出した。グダグダ言わずに、これからの行動で示すから」


 俺にはどこか、打算的な思考もあったと思う。

 後継者は俺しかいない。他所の間に合わせの人間に継がせることを、父は何よりも嫌がる。そのことを理解していたから、なんだかんだ言っても、最後はこの提案を断らないだろうと踏んでいた。


「絶対、逃げないな?」


 そう問われ、本当は嫌だったけれど、頷くしかなかった。

 もう後なんかなかったから。
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