偽王子と、甘い偽恋
 近くの食堂からの帰り、佐々木さんと新しくできたカフェに向かった。

 休憩時間終了まで残り二十分ほどの為、テイクアウトして会社に戻ろうと話していた。

 ほんの少し混み合っている店内へ足を踏み入れると、メニュー表示の多さに少し驚かされる。


「佐々木さん、何にします?」

「カフェラテにしようかなと…。ここ、会社の近くにあるから今度から簡単に通えそうで、いいですね」


 店の雰囲気はとても良かった。だけど、やけに女性客が多い。

 カフェが女性に人気なのは納得いくけれど、それだけではない何かが理由のような気がして辺りを見渡すと、受付に立つ店員の男性が、それはそれは美形だった。

 しかも、その男性には見覚えがあり、私は思わず目を見開いた。


「さ、佐々木さん…」

「はい?」

「昨日会った男性、あの人です」

「え?」


 佐々木さんもカウンターに目を向ける。そこには、完璧な笑顔で接客をこなす昨夜の王子様がいた。

 優しい笑顔と柔らかな物腰で女性客をメロつかせている、罪な男!

 佐々木さんは少し苦笑いしながらも、一緒に列に並んでいてくれた。

 ようやく自分たちの番が回ってくると、男性の視線がこちらに向く。
 胸元の名札には、丸っこいひらがなで『おみ』と書かれていた。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


 自分達に向けられたその笑顔は、とんでもない破壊力を持っていた。


「ホットカフェラテ二つで」

「はい、かしこまりました」


 佐々木さんが注文を済ませ、決済のためにスマートフォンを取り出してくれる。

 私も慌てて財布を取り出し、支払いをしようとしていると、「そういえば、昨夜は大丈夫でした?」と、不意に声を掛けられた。

 その言葉に驚き、顔を上げると、男性が会計を済ませながらこちらに問いかけてきていた。


「へ…?」

「膝怪我していたので、大丈夫だったかなって」


 まさか覚えられていたとは思わず、一気に羞恥心で顔が熱くなった。
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